レコード会社プロデューサーとして〝2000万枚の土に還らないプラスチック製品(CD)を売った男=ぼく〟が

『たった10枚の土に還る服を作るための旅』にでたのは、2016年の初夏だから、もう3年近く前のこととなる。

また、ぼくはこの旅を「誰も傷つけず土に還る服を創る旅」とも名づけた。

友人の、モデルでエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗とぼくはタイのバンコクで合流して、そこからは現地のエシカルアパレル「アトリエふわり」デザイナーHiromiさんの案内で北上。

バンコクのあとはチェンマイ、そしてチェンライを訪れた。



ぼくプロデュースのサルエルパンツ《The Journey》が誕生したのは、その旅だった。

「生まれたから終わりではありません。はじまりでした。」
デザイナーのHiromiさんは、こう話す。

ぼく自ら、街で、旅でしつこいくらいに履き倒してフィールドテストを繰り返し、Hiromiさんに何度もフィードバックをさせてもらった。

ご存知「超軽量マニア」のぼくは、まずできる限り軽くしてほしいとリクエスト。ただ、旅でハードに使うことを考えたら強度も重要となる。

その相反する2要素の両立は難しかったはずだが、さすがタイの百戦錬磨の現地の職人さんたちである。そこは一発でクリア。



時間がかかったのは履き心地の良さを確保しながらも、見た目に美しいシルエットを追求する点。ぼくが納得いくまで何度やり直しをしてもらったことか。

それまでぼくは、アウトドアブランドをプロデュースしたり、登山ウエアの商品開発をしていたこともあり、通常のアパレル開発者よりも「動きやすさ」へのこだわりが強かったから大変だったはず。

さらに、旅で必須のパスポートやiPhoneが落ちないポケット形状が完成するまで、数度のトライアルを繰り返していただいた。

ぼくはこのパンツを、年の数ヶ月間を費やす世界中での移動生活ウエアの主軸にしたかったので、「旅での使いやすさ」は妥協したくなかったのだ。



そして、もっとも重要な「環境への負荷を最小限にすること」にしても徹底的に考え抜き、高い要望を出させていただいた。

そんな修正が何度も繰り返され、晴れて完成形が出来上がったのは2017年の春の終わり。

気づけば、あの「誰も傷つけず土に還る服を創る旅」から、ぼくが完全OKを出すまでに2年近い歳月が流れていた。

《The Journey》は小さな工房で一つ一つ作られている。かの20世紀に、地球環境を破壊し尽くした大量生産方式ではない。

ぼくがプロデュースしたあの恐ろしいほどの数のCDたちが、巨大な工場のマシーンによって、分単位の速度で製造されるような行程とは真逆だ。



そして手作りだけに、縫製チームから上がってくるサンプルは、サイズが微妙に変わってたり、形が違うものになったりしたことも何度かあった。

でも不思議と、怒りや落胆の気持ちはわいてこない。

それはきっと、実際に織ってくださる現地のおばさまにお会いして、ハグまでしてるからだろう。おばさまの身の上に起きた苦労話を、デザイナーのHiromi さんから聞いてるからだろう。

そのたび、あの素敵な笑顔を思い出しては、「おばちゃんドンマイ!笑」と、思わず口にしていたのもいい思い出だ。

「ファスト=Fast」が基本の、流れの早いファッションの世界で、2年近くもかけて創り上げたこの「スロウ=Slow」なパンツは、〝大地の恵〟と〝手仕事の緻密さ〟と〝Hiromiさんの汗〟が詰まった愛の作品になったと言えるだろう。



「この土に還せる服《The Journey》は、世界中を旅する大輔さんの相棒であり、ニュージーランドの湖畔の森で、土に還る生き方をする大輔さんそのものなんだなって思います。」

これは完成したあとに、Hiromi さんが言ってくれた言葉だ。
とても、うれしかった。

農薬をほとんど必要としない天然素材リネンの特性である、肌触りのよさと速乾性は、言うまでもなく旅で大活躍。

さらに、大地を汚さない草木染めと木のボタンを採用することで、短期間で完全に土に還ることができる。

そんなぼくのこだわりを形にしただけでなく、当然、現地の工房の人たちの生活や、生産・流通過程における環境や地域社会へも負荷もないよう配慮して手作りされている。

つまり「誰も傷つけない」ということだ。



しかも、Hiromiさんは自身のブランドの製品は基本、小売には置かず対面で売っている。年に何度か、全国行脚しながら各地のスペースを借りて直接手売りされているというから驚きだ。

ただ、全国にいるぼくのファンからの強い希望もあって、最近は細々とだが通販も始めてくださったようだ。
(Hiromiさんありがとう)

受注生産に近い方式なので、手元に届くまで時間がかかってしまう点はご了承いただきたい。《The Journey》は今ちょうど、次の生産分の予約受付中とのこと。

なによりHiromiさんがすごいのは、購入したあとに破れたり縫製がだめになったりしても、無償で修理をしているところだ。永久保証をうたってるわけではないが、事実上そういう対応をしていることになる。

地球と人間を傷つけ続けている大量生産・大量廃棄という暴力的なシステムへの、「大切に長く使い続けてもらいたい」という想いが込められた、Hiromiさんなりの穏やかでクリエイティブな抵抗活動とぼくは解釈している。



なお、ぼくがこのパンツを創った目的は、利益追求ではなく、ぼくの人生哲学を「モノ」で表現することにあった。

これまでぼくは「コトバ」でそれをやってきた。だから、ぼくにとっては新しい挑戦なのである。そんな無謀な試みに付き添ってくださったHiromiさんには感謝の言葉しかない。

ぼくやHiromiさんが「生き方として信じる価値を《The Journey》にギュッと詰め込んで届けようとしている」と言うと、もう少し伝わるだろうか。

ちょうどさっき、この記事を書いていることをHiromiさんに伝えたところ、昨年の2018年から追加した女性サイズの《Journey sister》含め、売り上げがちょうど50枚を超えたところだという。



超巨大産業のファッション業界においては、まったくもって大したことのない数字だろう。

でもうれしかった。
これまで多くのヒットを手がけてぼくにとっては、過去のどの成果よりも感動だった。

10枚からはじまった、この土へ還るパンツプロジェクト。そこに込めたぼくらのメッセージはきっと、50名の方々に届いているだろう。

さあ、ぼくらの想いを乗せて《The Journey》の旅は続く。
その旅の途中であなたに出逢えたら、そんなに嬉しいことはない。
〈All of photos with no credit: Daisuke YOSUMI〉


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