伝説の海洋ノマド「マオリ族」
「世界でもっとも若い国」といわれるニュージーランド。英国植民地から独立したのがわずか65年前の1947年、ヨーロッパ人が入植を開始したのは18世紀末、200年ほど前だ。
それより遡ること約800年前、ある海洋ノマドの一派が先にこの島に上陸していた。神話によると、7艘のカヌーで「ハワイキ」(ハワイなどの地名の語源でもある伝説の土地)から渡ってきたといわれている。
定住後は独自の文化を築き上げ、自然と共生して生きる森の民「マオリ族」となった。マオリは文字を持たず、詳細な歴史の記録が残っていないため、伝説の民と呼ばれる。だが、数百年に渡り口承伝達されてきた多くの物語には、人類が直面している問題解決のヒントが溢れている。
今回は、その中からある一つの教えについて書いてみたい。
マナの物語を聞かせてくれたカレンさん。非常に高い「マナ」の持ち主のマオリで、大切な僕の友人だ。
お金より大切なもの
西洋人が貨幣制度を持ち込む以前に、「通貨」の代わりにマオリの間で流通していた「ある価値観」があった。
それは「マナ(Mana)」と呼ばれ、彼らは生きる上でそれをもっとも大切にし、いかにマナを稼ぐか、高めるか、ということが人生において至上の命題としていた。
英語には該当する言葉がなく、日本語にすると「徳や品格」がそれに近い。僕は「魂の品位」と解釈している。マナには3種類ある。①生まれた時に備わっているマナ、②生きることで失っていくマナ、③人から与えられるマナ。
人は、最大級のマナを持ってこの世に生まれる。だが、歳を重ねながら不徳や罪を犯すことで、マナを失っていく。同時に、善い行ないをし、人から感謝されることで、高次のマナが与えられる。
マナを得るためには「与えられる人」でなければならないのだ。この価値観は同時に、人間の性善説も唱えている。なんとも美しく、示唆に富んだ哲学なのだろう。
本当に大切なことは何か...と想いをはせる。大自然に囲まれたノイズレスなこの場所は、思索には最高の環境だ。
ぼくらは何のために生きる?
資本主義に限界がきていることは誰の目にも明らかだ。貨幣制度が破綻したあとに来る世界はなにか? 物々交換社会の復活なのか、多くの経済学者や未来学者たちが研究を重ねるが、明解な答えは出ていない。
マナの教えが伝えてくれることはシンプルだ。表面的な社会システムがどう変わろうが、人間が生きる上での「根源的な真理」は不変である、ということ。お金を稼ぐため〝だけ〟に生きるのではなく、「マナ」を得るために生きる。お金を失うことより、マナを失うことを恐れるという、人として当たり前の価値観。
この大切な真理をちゃんと心から理解さえしていれば、世の中にどんな大変革が起きようと、恐れることなく、堂々と生きていけるのではないだろうか。