原発ゼロ。グリーン発電80%
昨年の福島第一原発事故以降、世界では再生可能エネルギー(グリーン発電)への意識が以前に増して高まっている。
しかし、3.11以降も世界の原発建設のペースはまったく落ちていないという。
僕が暮らすニュージーランドのサスティナブルな電力事情、またそれを支える人々のライフスタイルについてレポートしてみたい。
国として〝カーボン・ニュートラル宣言〟を宣言したことで有名なニュージーランドだが、全体の電力における再生可能エネルギーの割合を2025年までに90%にするという目標を掲げている。
最新情報によると、現在その割合は約80%まで上昇しており、その目標は決して絵空事ではない、ということがわかる。
内訳は、その約半分が水力発電で、残りを地熱、風力、バイオマス、太陽光が占める。
なお、原子力発電は1基もなく、研究用の原子力研究所さえも存在しない。
同じく原発のない隣国オーストラリアにはウラン鉱山があるが、どの鉱山もニュージーランドから4000km以上離れている。つまり、この国は完全な放射能フリーということだ。
うちから車で2時間圏内に続々と建設されている地熱発電所のひとつ。周辺の水域や地下水脈に影響を与えないような構造とルールが徹底されている。
放射能リスクがない先進国、わずか2つ
原発がない先進国は他にも、イタリア、デンマーク、ノルウェー、アイスランドとあるが、ヨーロッパ圏ではすぐ隣接する国に原発が並ぶため、実質的な放射能リスクを回避することは難しい。
「ウラン鉱山がない・原発が並ぶエリアから距離がある」などといった、地球規模の地理的観点で見た場合、〝本当の放射能リスク・フリー〟と呼べる先進国は、大陸から離れた場所に位置する島国、アイスランドとニュージーランドだけとなってしまう(なんとアイスランドの再生可能エネルギー率はほぼ100%)。
この事実が、昨今、急に加熱してきた〝ニュージーランド移住ブーム〟にもつながっているのだろう。
さらに1987年に成立した世界初の「非核法」では、他国の原子力空母や潜水艦などの原子力を動力とする船艦、核保有の可能性のある艦艇の、領海侵入さえも認めないという内容となっている。
あらゆる政治的圧力にも屈せず、米国の空母の寄港を一蹴したという武勇伝があるほど、徹底した非核政策をとっているのだ。
残る20%の、グリーン発電以外は火力。その内訳は、石炭、オイル、そして天然ガス。
特筆すべきは、火力発電所の新設が禁じられている点だ。つまり、今後作られる発電所はすべて再生可能エネルギーのみとなる。
昨年、ぼくが暮らすエリアに世界最大の地熱発電所が完成し、さらに来年もう1基が完成する。
そして、現在4つある大型火力発電所は順次廃炉にするか、平時運転をしないバックアップとしてのみ残していくという。
こうやって、近い将来達成されるであろう悲願の〝グリーン発電100%〟に向けて、この国は着々と前進していくのだろう。
景観美で有名なミルフォードサウンドでカヤックしたときの1枚。この滝ひとつで隣接する街の電力100%がまかなわれている。ライフスタイルの追求から
すべてはライフスタイルの追求した結果
ただ、このグリーンな電力事情にはマイナス面もある。電気代がとても高いのだ(ちなみに、ニュージーランドではガソリンも高い)。
生鮮食品などの、日常生活に必要なモノの値段が日本に比べてとても安いだけに、その際立った高さにはぼくも驚いた。
それもあってか、この国では「節電」が当たり前の日常行為として、ライフスタイルの中に組み込まれている。
24時間営業のコンビニはほとんど見かけず、夜間に道路を煌々と照らす自動販売機も無い。
冬は暖房をつけない店がほとんどで、コートを着たまま買い物をし、レストランでも上着を着たまま。
そもそも夜まで営業する飲食店がとても少なく、その多くが朝食とランチのみのカフェ形式。さらに大半の販売店が平日は17時に閉店し、日曜は14時までという店もある。
ただし、キッチンや風呂まわりがガス主流の日本と違い、家庭やお店の調理コンロや湯沸し器のほとんどが電気式のため、ひとりあたりの電気消費量は意外に多い。そして、日本が世界に誇る〝節電大国〟であることはあまり知られていない。
ニュージーランド人は、そんな生活環境を「不便」と思わないどころか、当然のこととして受け入れ、「早寝早起き」という合理的かつ健康的な習慣を身に付けているのだ。
いや、順番が違う。仕事の成果や経済成長よりも、家族と過ごす時間や、自身の健康と心を大切にするライフスタイルを追求した結果、余計な電力を必要としなくなった…という言い方が正しいだろう。
もっとシンプルにいうと「地球を敬い太陽のリズムで暮らしているだけ」。つまり人間らしく生きているだけなのかもしれない。