南インド・ケララ州の、海沿いの森にあるアーユルヴェーダ・リトリートでこの原稿を書いている(2016年6月当時)。

ぼくが暮らす、ニュージーランドの湖畔の森には小さな集落があり、そこの住民たちはハイレベルなナチュラリストばかり。

さらにおもしろいことがある。
彼らの多くが、生き方や思想において、とてもリベラルなのだ。

街から20kmも離れた不便な森に、わざわざ居を構えるほどだから、(ぼくを含め)もとから少し違った嗜好や思考回路を持っていた人が大半。

そして、大自然に抱かれて毎日を過ごしていると、ぼく自身も、思考がより違う方向へシフトチェンジしてゆくのがわかる。

それは、人間としてより根源的な方向であり、「現代社会の仕組みから逃れられない都市生活者にとっての当たり前」とは違う方向だ。

とはいえ。
ニュージーランドは、ヨーロッパを中心に日・米などの先進国35カ国が加盟している国際機関「OECD加盟国」の一国でもあり、資本主義制度下にある。

当然、ほとんどの湖の住人たちは、お金の収入をベースに生計を立てている。

だが湖畔の住民の間では、小規模だが「物々交換」「物技交換」「技々(スキル)交換」が頻繁に行われている。

これが、とてもおもしろい。

ぼくが提供できる技=スキルは〈釣り〉、レコード会社プロデューサー時代に培った〈ブランディングスキル〉、そして〈体力〉だ。

湖畔の住民の、釣り好きの友人がヨーロッパから訪れた際。フライフィッシングの案内をしてほしいと相談を受けたので、ぼくのフィッシングボートに乗せてあげたり。

ぼくの不在時に畑の面倒を見てくれる、観光業を営むお隣さんには、WEBサイトや広告のディレクションをしてあげたり。

(当時)独り身であるぼくを、よくディナーに誘ってくれた友人が、家を改修する時には、肉体労働を買って出たり。

配管やポンプをいつも修理してくれるご近所さんには、ぼくがいつも海で釣るヒラマサの一番いい部位を差し上げたり。

〈Model. Daisuke YOSUMI in NZ / 自然農法のエキスパートにアドバイスを貰いながら、我が家の畑を整備中〉

「お互いなるべくお金を使わず、貨幣制度に依存せずに生活できるよう、うまく協力していこう」という〝インディペンデント精神〟がそこには存在する。

人生初の「物技交換契約」は、あるアウトドアブランドのプロモーションをお手伝いすることになったとき。

もともとそこの製品が大好きで、自分で買って使っていた。

契約料の代わりにウエアやギアを提供して貰えないか?と提案してみたら、あっさり快諾されたのである。

それ以降、さまざまな物技交換を開始。

ある航空会社のマーケティングのアドバイスをする代わりに、年に数枚の国際線エアチケットをご提供いただく。

オーガニックワインのアンバサダーを務める代わりに、一定本数のワインを無料で送っていただく。

ノーギャラで講演をする代わりに、毎年一定期間、無料で客船に乗せてもらう。

ここに挙げたのはほんの一例で、ほかにもたくさんある。

ここでもっとも重要なことを伝えておきたい。

それは、何らかの形でお手伝いしている製品やサービス、企業に関しては、「ぼく自身が心の底から好きであり、生活で必要なもの」という点である。

そこがずれてしまうと、その契約は成立しない。

「欲しくないもののためにギャラなしで頑張る」というのはモチベーションがまったくわかない。
増してや「これいいですよ」と宣伝活動をすること自体が嘘になってしまう。

そうやって少しずつ、お金を介在させない仕事が自然に増えていった。

次回よりそのルーツと、なぜ物技交換にこだわるのか詳しく綴ってみたいと思う。

〈All of photos with no credit: Daisuke YOSUMI〉

▽シリーズ《マイ・ワークスタイル|物技交換》
マイ・ワークススタイル|物技交換(前編)
マイ・ワークススタイル|物技交換(中編)
マイ・ワークスタイル|物技交換(後編)