本インタビュー【前編】は〝感じる〟からすべては始まる。頭ではなく、心と体で|四角大輔...
立場ではなく、一人の人間として行動する
プロデューサーとしていろいろな関係者と一緒に仕事をしていて、四角氏は感じることがある。一緒に仕事をしていて「この人は素敵だな」と思う人は、頭がいいとか、器用とか、言葉がうまいとか、そういうことに秀でているわけではない。尊敬できる人には、〝心〟と〝信念〟がある。
それは、何かを〝判断する時〟に顕著に表れる。
「その人の立場ではなく〝一人の人間〟としてどう思い、どう発言し、どう行動できるかです。たとえば、「私はレコード会社の社員なので、ここまでしかできないんです」ということは絶対に言わない。本当にやりたいことがあれば、その人の立場は関係ないです。
その人は、たまたまそこに属しているだけですから。一人の人間として仕事をする上で、会社や組織に縛られるのではなく、それを単なるインフラとして使う、といった意識で仕事をするぐらいの方がいいと思っています」
もちろん、その行動はあつれきを生むことも多い。でも、自分が心を開いて、本気の熱意を持って伝えれば、共感してくれる人は必ず現れるし、一緒に行動してくれる人は出てくる、と四角氏は言い切る。
どんな人に対しても、自分の目線はひとつ
アーティストをプロデュースする上で大切なのは、自分より10~20歳以上も若いアーティストに、対等に、本気で対峙することだ、と四角氏は語る。
「歌や歌詞、音やパフォーマンスだけで人を感動させることができるのが音楽アーティストです。それだけで世の中を動かすことができるんです。学歴が高くて、いろんなことを身に付けている人すべてが世の中に対して貢献しているかというと、そうではないし、成功するとも限らない。でも、10~20代で、まだなんのキャリアもないようなアーティストでも、マイク一本で人を感動させられる。上から目線では、そういった才能を見抜けない。年齢や見た目、実績がこうだから、この人はこんな人だ、というような先入観を持ってしまうと、人の本質は見抜けない」
では、どこを見るのか。四角氏は目つきや表情の雰囲気を見るという。何かをもっているアーティストは、瞳や顔つきがキラキラしているという。
「人間力がある人、魅力的な人って、自分自身と自分の役割をわかっていて、他人をうらやましいと思わない人ですね。そして、自分がやっていることに心から満足していたら、他人からの評価は関係ない。そして、そんなアーティストの一番いいところを見つけて、伸ばしてあげることがプロデューサーの一番大きな役割なんです。無名の新人でも、ブレイク後のビッグネームでも、対等でいることが大切。アーティストと同じ目線でい続けることは、大切にしている価値観というか、哲学の一つですね」
仕事で出会う素敵な人たちは、表面的な見え方は全く気にしないと言う。「子供が友達と付き合う時って、その人が好きかどうかだけですよね。お家柄がどうとか、出身や格好がどうとか、全然関係ないです。そういった子供の時の純粋な判断が、人を見るときには必要なんではないでしょうか」
〝TO DOリスト〟ではなく、〝やりたいことリスト〟を作る
四角氏は、教員免許を持っていることもあり、マルチキャリアの一貫として、東京の上智大学で非常勤講師を務めている。キャリアデザインやマーケティング論、ブランディング哲学などを、自らの経験を通じて、独自の言葉で大学生に語りかけている。
「大学生には、〝やりたいことリスト=DREAMリスト〟を作ることを勧めています。ぼく自身も、中学生の頃から実践しています。TO DOリストではないです。TO DOリストは〝やらなければならないことリスト〟で、外的な理由から生まれます。〝やりたいことリスト〟は、自分の内側、つまり心で作るものです」
生計を立てていくためにTO DOリストを追いかけることは必要である。しかし、〝やらなければならないこと〟ばかり毎日追いかけていると、人生の大目的を見誤ってしまう。
人生の大目的である〝やりたいことリスト=DREAMリスト〟を行動に移すために、夢を実現するために、プランニングをする。この思考法は、アーティストプロデュースと同じだという。例えば「絢香をこんな存在のアーティストにしたい」という大きな〝DREAM〟をまず心に描き、それを実現するためにやるべきことを、全てリストアップして〝TO DOリスト〟に落として込み、一つ漏らさず行動に移していく。
〝この人に会いたい〟と思ったら、どうすれば会えるかを考える。〝ここに行きたい〟と思ったら、どうすれば行けるかを考える。〝このアーティストをブレイクさせたい〟と思ったら、何をすべきか考える。「誰でも実践できるとてもシンプルな思考法と行動規範だ」と四角氏は語る。
「具体的な行動計画に落とすと、時間が足りないことに気付きます。だから一瞬一瞬を無駄にしなくなる。そして、その足りない時間を最大限に活用するためには、優先順位を明確にして、いらないことを捨てられる。つまり、本当に大切なこと一つひとつに集中できるようになるんです。あと、集中しろって言われても、人間は楽しくないことには集中できないので、いかに自分を楽しく持っていくかも大切ですね。そうすると、必然的に〝感動できることだけをやる〟という原点にたち戻れます。これは、人生でもアーティストプロデュースでも同じなんです」
100段跳びはできないが、1段跳びなら誰でもできる
四角氏は、もともと自分の能力に期待していないという。メモを取っているのも、記憶力が悪いから。そのメモをコツコツ実践しているのも、基本的に自分には実力がないからだと言う。
「小学校の時は、家では全く勉強机に座りませんでした。中学校に入り勉強をしないといけなくなった時、どうすれば自分を勉強机に向かわせられるかを考えました。まずは勉強を始める前に、勉強机で30分間はマンガを読むことから始めました。はじめは、マンガに夢中になって30分で終わらないことが多かったですが(笑)。でも、それを毎日続けていると、段々と勉強机に向かえるようになり、少しずつ勉強をするようになりました(笑)」
100段跳びはできないが、1段跳びなら誰でもできる。ということは、大目標が100段先にあっても、100回跳べば目標にたどり着ける。その1段ずつを確実に跳ぶことが、やりたいことをやり遂げる自分なりの方法だと、四角氏は語る。
そして、その目標を達成するための手段としては、徹底的に見本を見つけることを実践している。
「その100段先のゴールに向かうために、できる人のやることを真似することで、いろんなことを吸収して自分のものにする。それが一番の近道だと思っています」
人生の最終目標は〝親父になること〟
では、その人生のゴールをどこに置いているのか。四角氏は人生のゴールを、〝親父になること〟に置いている。
「自分が親父になったら子供にこういうことを伝えようって、昔から思っていました。ぼくの最終的なアウトプット目標は〝親父になる〟こと。親父という職業に就く、ということです」
それまでのすべての経験は全て、インプットに過ぎないと位置づける。たとえば、音楽の仕事での成功体験や、釣りもアウトドアも大学の講師も、すべて親父として子供に表現するためのインプット作業、という感覚だ。
「親父というのは、経験していることが全て生かせる、素晴らしい職業だと思うんです。親父になってからが、自分の本当の表現活動が始まる、本番が始まると思っています。つまり、まだ始まっていないんですね。だから、自分はまだまだだと思う意識が強いんです」