先月の〈Design Independence〉では、貨幣経済やエネルギー支配など、不合理な社会システムから距離を置く、依存しない生き方をテーマにすえた。

現代社会を動かしているシステムの多くが、不自然さを伴っている。
そんな理不尽な世界から少しでも距離を置き、インディペンデントに生きられたとしても、心の平穏を保てなければ意味はない。


今月の
《Mindfuluness Design》では、人生を決める「心と意識のあり方」について、より深く見ていきたい。

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【今週の先出しハイライト】
・マインドフルネスとは、不可抗力な物事を静かに受け流し、今この瞬間に意識を向けてあるがままを受け入れる心のあり方。
・マインドフルネスは、出来事と自分の反応の間に「心の余白」をつくり、理不尽さや情報の洪水に飲まれない健やかさを育む。
・日常の中に瞑想的な時間を持ち、判断や反応をいったん手放すこと。それが心を平和に保ち、本来の自分に戻る鍵になる。
・幸せに生きる秘訣は、「今この瞬間」に集中すること。人生の本番は、いつだって“今”にある。

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<スリランカの原生林に隣接したアーユルヴェーダ施設にて。ここでは、瞑想は毎朝のルーティン>


●「空」で「無」な状態

「マインドフルネス」とは、座禅をベースにした瞑想法の一種。

シリコンバレーやウォール・ストリートのエリートが、生産性向上のために始めたことで有名になり、今や世界中のエグゼクティブやアスリートが実践する——パフォーマンスを高める科学的なアプローチとして市民権を得ている。

米イェール大学医学部の精神神経学科で先端脳科学を研究し、日米で25 年の臨床経験を持つ久賀谷亮氏いわく、瞑想はもはや〝東洋の神秘〟ではなく、「脳によい変化をもたらすことが実証的に確認されている」という。

やり方は、座禅などと同じで、次の1,2の繰り返しだ。
1:静かに座り、自分の呼吸に意識を集中させる
2:気がそれてもその都度、意識を呼吸に戻す


今この瞬間の自分に意識を向け、「どうしようもない不可抗力」に対して一旦判断を保留にし、あるがままを受け入れる。

マインドフルネスを通じて得られるのは、このような
心の状態
この「心の状態そのもの」をマインドフルネスと呼んだりもする。

物事に判断を加えず、あるがままを受け入れるというのは、
「良い・悪い」の議論から距離を置くこと

反発したり、怒ったり、むやみに抵抗したり、ジャッジすることは、瞑想的な価値観では「あまり意味がない」とされる
 

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● なぜ今、「マインドフルネス」が求められているのか

マインドフルネスは「心の余白」を生み出してくれる。 


昨今の急速な社会変化、爆発的に増え続ける情報、そして世の中に横行する理不尽さ。
 


これらと直面しても、ストレスに押しつぶされることなく、健やかに生きるためには、
身の周りで起きる出来事と、あなたの反応の間に「余白」をつくる必要がある

心に余白を持って物事を客観視できれば、とてつもなく大変な事態に巻き込まれたときでも、不思議と冷静に受け入れられる。
自分が映画の主人公になったつもりになって、それを観客席から観ている様子をイメージするといいだろう。

たとえば、
「コイツ(自分)、かなりヤバい状況にいるな〜。どうやって脱出するんだ!?笑」
みたいな感じ😉

言い換えると、自分が置かれた苦しい状況を、「天」から見下ろす気持ち(または、自分が主人公の舞台をながめる心持ち)で
当事者意識を消し去り、動揺やパニックといった感情さえも客観視するくらい「無」の境地になってみる、ということ。  

そうやって、あなたの発言や行動をコントロールする意識を、一時的に頭から追い出して瞑想的な時間を日々の暮らしで持つこと。そして、できればそういった境地で暮らし、働くこと。

これがぼくの考える
「マインドフルネスに生きる=瞑想的に生きる」ということ。 

それができれば、生活そのものが「動的メディテーション」になる 


そしてこれこそが、
心を平和にして、本来のあなたを取り戻すための鍵だ。

別の言い方をすると、常に頭にあってフラフラしがちなあなたの意識を、
命が宿る体の中心部分、つまり「心」まで下ろす行為でもある。

これまで
繰り返し書いてきたように——「すべてを打算的に、理論的に頭で決める」と、間違った判断をしがちになるだけではなく、必ずあとで後悔することになる。 


正しい判断軸を取り戻すためにも、「身体感覚や心で決める」ということが重要だ。そのためのマインドフルネスと言っていいだろう。

<動的メディテーションについては、ボディ&メンタルデザインで詳しく紹介している>





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● 美しい点を描こう

人生を大いに楽しむ秘訣は、シンプルに「今この瞬間」に集中すること。

人生を幸せに生きる方法は、今に集中することだけと言い切れる。
幸福度が低い人はいつも「過去や未来」に生きている

過去を振り返ったとき、後悔や反省を思い浮かべてしまう。
未来ばかりにとらわれると、将来への不安がでてきたり、準備や練習ばかりの人生になったりするもの。つまり、
人生の本番を生きていないということ。

過去でも未来でもなく「今」。
今だけが「本番」だ。

今に集中するとは、
生かされている「この瞬間」に感謝することでもある。
そして、何気ない日常に高い意識を向けられるようになる。

禅の世界では、
「日常生活のすべてが修行である」という考え方がある。
日々の細事(ディティール)を疎かにせず、ひとつひとつの作務*を大切にすることが、穏やかで心豊かな人生を作るのだ。 

(*作務 = 仕事や事務、作業など労働を通しての仏道修行)

みなさんは、
「点画」を見たことがあるだろうか。

文字どおり「点」だけで描かれた絵で、近くで見ると単なる点の集まり。何が描かれているのかわからない。
しかし、
遠くから見ると一枚の見事な絵になる。

「人生とは、まさに点画」とぼくは思っている。 


今この瞬間に打つ点を積み重ねることこそが、「生きること」だ。

これは、ぼくが提唱する
「人は誰もがアーティスト」の定義の1つでもある。
つまり、人は誰もが意識するしないに関わらず、毎秒一点というペースで、
人生の点を描く作務を行っている。

言うなれば、ただひたすらに
「目の前の、今この瞬間」に集中して生きることで「人はアーティストになれる」ということ。

ここでぼくがもっとも尊敬する人物、
アップルの創設者スティーブ・ジョブズの言葉を紹介しよう。

「点と点の繋がりは予測できない。あとで振り返って、点のつながりに気づくだけ。今やっていることが、なにかにつながると信じよう。そう信じていれば、ほかの人と違う道を歩いていても、自信を持って歩き通せる。それが人生に違いをもたらすのだ」