「Live Small, Dream Big——小さく生活し、夢は大きく」
これは、欧米のベストセラー『Tiny House』の副題で、本書ではこう解釈している。
「贅沢やムダを省いて、超効率化することで得る時間と資金を、人生の夢に投資する」
「Live Big, Dream Small——大きく生活し、夢は小さく」
SmallとBigを入れ替えた場合の解釈はこうだ。
「見栄と物欲に時間・エネルギー・お金を浪費し、将来への投資や夢どころじゃない」
あなたはどちらを望むだろうか。
ぼくは迷わず前者を選ぶ。実際に、50 年以上そう生きてきた——日本では変わり者扱いされて苦しみながらも。
「Live Small, Dream Big——贅沢やムダを省いて、超効率化することで得る〝時間・資金・エネルギー〟を、人生の夢に投資する」ための唯一の方法は、ミニマル主義をもって、ミニマル・ライフを実践することだ。
それができたなら、「本当に大切なこと」「心から愛すること」「人生で成し遂げたいこと」、つまりあなたの「夢」に一点集中できるようになる。
「Less is More 」
最近は、この言葉を多くの人がいろんな場面で使うようになった。Camperのみなさんも聞いたことがあるはず。
我がアニキ・本田直之さんの2012年のベストセラー『LESS IS MORE 自由に生きるために、幸せについて考えてみた』が、この言葉の認知度を一気に高めた。
ちなみに、ぼくが10年以上愛用し、アンバサダーを務めた、北欧のパタゴニアと呼ばれるサステナブルなアウトドアブランド「HAGLOFS(ホグロフス)」の最軽量ライン『L.I.M』 シリーズも「Less is More」の略であり、「最小限で最大限のパフォーマンスを」がコンセプト。
「Less is More」とは元々は、自然と調和したミニマリズムな建築を生み出したドイツの建築家、ミース・ファンデルローエの言葉だ。
「Less is More」を訳すと「少ないことこそ豊か」となる。
これは建築の世界に限らず、現代の人生デザインにおいては重要な思想だ。
ちなみに、ぼくは日本語に訳しにくい「Less is More」を「足るを知る」と訳している。
欧米人に、この言葉の意味を伝えると「とても禅的だ」と言われる。
ぼくは、禅的ともいえるこの言葉がずっと大好きで、「Less is Freedom」「Less is Beautiful」という言葉を好んで使っている。
どんなに大きな名声や大金を手にしていても——
今この瞬間、手の中にある「派手ではないが本質的な豊かさ」と「日常にあふれる小さな喜び」を見いだし、それを味わい、感謝するという感性を持たない限り、人は決して幸せになれない。
今週は、「Less is More」が教えてくれる気付きをヒントに、暮らしや仕事をより豊かにする「ミニマリズム(ミニマル主義)という人生戦略」についてお伝えしていく。
<「Less is More」提唱者、ミース・ファンデルローエの建築思想が最も反映された「ファンズワース邸」。欧米的なミニマリズムを感じる。ここが湖畔なら絶対に住みたい(笑)>
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【今週の先出しハイライト】
・ミニマル・ライフとは「労力・時間・お金=コスト」を最小限に抑えて「あなたのリソース」を最大化し、その全てを一番大切なことに集中投資する〝一点豪華主義〟な生き方のこと。
・「魂が震えるような、命に刻み込むような強烈な体験をどれだけできるか」これが、今回の人生を決めると信じて、ぼくは生きてきた。
・人生は長距離を歩き続けるバックパッキング登山と同じで、急ぐ必要はなく、自分の歩幅とペースで、自分のアーティスト性を維持したまま歩いていけばいい。
・「ミニマル主義」とは、大切なことにフォーカスし、自分にとって「大切なもの」を心から大切にし、本気になって守り抜くということ。
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【ミニマルに生きるために大切な4つのこと】
1. 余白を持って暮らす
ぼくは「シンプル」と「ミニマル」という言葉が好きだ。
かのレオナルド・ダ・ヴィンチは、
「シンプルさとは、究極の洗練である」
という言葉を残している。
「シンプル」と「ミニマル」の違いはご存知だろうか。
「シンプル」が簡素化して特徴を無くした状態なのに対し―「ミニマル」は極限まで削ぎ落とすことである特徴を際立せることを指す。
シンプルを極めることだけが、ミニマルライフではない。
ミニマルライフとは「労力・時間・お金=コスト」を最小限に抑えて「あなたのリソース」を最大化し、その全てを一番大切なことに集中投資する〝一点豪華主義〟な生き方のこと。
言い方を変えると——
「無駄なものを削ぎ落とし、制約や縛りから自身を解放し、身軽になり、人生の可能性を最大化すること」
であり——
「不要なノイズや荷物を減らして、自分や家族にとって本当に重要な物事に、時間・お金・労力を注ぎ込み続けること」
——である。
ミニマルを目指すとどうなるか。
モノを減らせば空間を広く感じられ、心に余裕が生まれる。モノの管理やメンテナンス、収納や整理整頓に奪われる時間を最小化できる。
その結果、心にゆとりが生まれる。
すると、残ったモノすべてを把握し、モノ一つひとつに愛情を注ぐことができる。
ちなみに、愛情を注がれたモノには命が宿るというのがぼくの考え。
逆に、愛せないモノに埋め尽くされた空間は、あなたの心と人生を(気づかぬうちに)深くむしばんでいく。
あなたや家族が「心から好きだ」と思えるモノしかない、余白のある空間こそが、真の豊かさをもたらすのだ。
あらゆることを削ぎ落としてミニマル化することで、誰もが「足るを知る」生き方ができる。
そこであなたが手にするのは、(心のゆとりがもたらす)圧倒的な安心感と、余りある自由時間だ。
そして、その先に待つのは、比較・競争とは無縁の——現代社会とは対極の——心穏やかな人生である。
いま一度、「よりミニマルに」という信条を人生の軸にしてみてほしい。
※このタイミングで《Design Your Space 02》を改めて読んで、自分の周りの物理的なノイズを見直してみよう!
2. モノや表面的なことではなく、体験に価値をおく
ぼくらは全員、寿命という肉体の使用期限が終わると、元の姿(全裸)で土に還る。
お金も名声も豪華なモノも、何ひとつあの世に持って行くことはできない。
まさに、ぼくが愛する禅の言葉「本来無一物(ほんらいむいちもつ)」である。
人間が死ぬ直前、頭の中に浮かぶのは、手にしているモノやお金、名誉や名声のことではなく、忘れられない強烈な思い出だ。
「魂が震えるような、命に刻み込むような体験をどれだけできるか」
これが、今回の人生を決めると信じて、ぼくは生きてきた。
「お金はモノではなく、体験に使うべき」
「人生では、魂に刻み込まれる体験しかしたくない」
「死んだ後にも残ることしか、創造したくない」
これが、ぼくの人生哲学。
「さあ、どうすべきか?」という局面で、ぼくはいつもこの3つを判断基準にしている。