世界では、「ミニマリスト」と呼ばれる人たちが注目を浴びている。日本では若い世代を中心に、支持を集めている生き方だ。
余計な物を持たず、シンプルな生活をしようとする人たちのことで、最終回となる今回は、当シリーズ「ULライフスタイル=超軽量生活」の総括としてその現象について書いてみたい。
思想としては、ひと昔前のヒッピーに近いが、違うのは、今の社会のあり方や経済活動を全面否定はせず、むしろ社会へコミットしようとする点にある。
彼らの思考は「反発」や「戦い」ではなく、「持続可能」という方向だ。その考えとスタイルは、ぼく自身が実践する〝ULライフスタイル〟にとても近い。
〈ビーチまで30歩のところに停めっぱなしにしてる、ニュージーランドでの第2の拠点、キャンピングトレーラー。愛する我が「タイニーハウス」だ。6畳あるかないかの小さなスペースだが、すべてを失ってもこれさえあれば、ぼくは生きていける〉
他にも、生きる上で大きな家は不要とする「タイニーハウス・ムーブメント」や、豪華さや刹那的な流行に背を向け、シンプルでオーソドックスな服を好む「ノームコア・ファッション」など、根底に同じ精神が流れる新しい動きがいくつもある。
物質的な豊かさの追求が、主流であった20世紀には考えられなかった潮流である。
「ポケット、カバン、家にあるモノを減らし、モノを選ぶときは、なるべく軽くてコンパクトなもの、可能であれば環境への負荷が少ないものにする」と、ここで伝えてきた。
実際にぼくが愛用する超軽量アイテムをここで紹介するたび、予想外の反響があることに驚いていたのだが、その理由の一つとして、こういった背景があるのだろう。
モノが溢れる先進国よりも、少々不便な途上国に暮らす人の方が、幸福度が高いという調査結果が出ているのは有名な話。
〈タイ北部の山岳民族の村のお邪魔させていただいた時の1枚。この織り物名人のおばちゃんの笑顔が忘れられない〉
もちろん精神的な幸福度は、ある程度以上の物資がないと得られない。でも現在の日本を見ると、もう充分以上の、いや過剰なほどのモノが揃っていると言えるだろう。
いま世界を席巻しつつある、「ヨガ」「マインドフルネス(瞑想)」「オーガニック」「フェアトレード」「エシカル」「サステナブル」といった、人間の根源にアプローチするキーワードは、上記の「ミニマリスト」「タイニーハウス」「ノームコア」といったムーブメントに呼応するものなのだと思う。
これらは、単なる趣味志向という低い次元のことではない。暴走する大量生産・大量消費ありきの経済構造への、静かな〝ライフスタイル抵抗活動〟であり、本質的な豊かさを追求するためのクリエイティブな表現活動なのだと、ぼくは考えている。
もっと言うならば、人類の未来のためには、人間としてあたりまえの思考なのかもしれない。
〈Photo. Takuya Tomimatsu〉
これまで、「アート」「クリエイティブ」という言葉は、特殊な才能とスキルをもつ一部の芸術家やクリエイターの特権のようにとらわれてきた。しかし、ぼくが20年近く「人は誰もがアーティスト」というメッセージを発信し続けてきたように、実は「生きること自体が表現活動」なのだ。
「手先や感性」を駆使しての表現活動はもちろん美しいが、「生き方」を通しての表現活動こそがもっとも美しい。それこそが、人間にとっての究極の表現だと信じて、ぼくは暮らし、働き、生きている。
あなたも、これらの、ライフスタイルを通してのクリエイティブな表現活動の潮流に乗ってみてほしい。あなたもぜひ、〝ライフスタイル・アーティスト〟になって、より心地よく、クリエイティブに生きてほしいんだ。
〈All of photos with no credit: Daisuke YOSUMI〉