ニュージーランドのオーガニックトレンドはココ!
1. オーガニックシーンをけん引するのは女性たち
 2. 外からではなく内側からという美意識
 3. オーガニック最大顧客はミレニアル世代

幸福度平和指数教育自由度の高さ、不正汚職の少なさといったランキングでは、北欧諸国と一緒にいつも上位に立つニュージーランド。

さらに、電力の約80%が再生可能エネルギーで原発はゼロ、テロの脅威ナシで重犯罪もほとんどななく、治安が良いといった“ライフスタイル先進国”として知られるこの国では、オーガニック文化が当たり前のように生活に根付いている。

ニュージーランドでは、庭に小さな菜園やハーブ園があることがほぼスタンダードと言っていいほど。そして、その大半がオーガニック。電力に限らず、「ケミカルフリーな食糧を少しでも自己調達したい」という考え方は、ある意味この国の“伝統文化”とも言えるのだ。

このカルチャーの土台には、豊かな大自然や環境先進国という側面と、どこからも遠いという地政学的な理由もある。「オーストラリアのすぐ脇」とよく勘違いされるが、実は2,000kmも離れている。そして、アジア、アメリカからは1万km以上で、ヨーロッパからはさらにその倍以上。

つまりこの国は、昨今の低コスト国際流通システムが整うまで、文字通り“地球上の孤島”で「常にモノ不足」という状況だった。それが、200%超の食糧自給率や水源の保全、高い電力自給率という国の政策につながり、市民の“グリーンな思想”に直結しているのである。

それゆえ、モノを長く使い続けることやリサイクルは習慣化されており、フェアトレードの歴史も世界最古クラス。大型スーパーにはオーガニックやフェアトレード商品が多く並び、小さな街にもオーガニックショップがあり、日本に比べるとかなり手軽に買うことができる。

そんなニュージーランドの、オーガニック市場の直近の統計(2012〜15)を見てみると、輸出では約10%増の2億4000万ニュージーランドドル(約184億8000万円)、国内では約30%増の4億5000万ニュージ―ランドドル(約346億5000万円)と、世界のオーガニック市場と同様に着実な伸びを見せている。ニュージーランドの場合、その70〜80%を第一次産業の生産物が占め、次に世界的に評価の高いワインと飲料が続く。

特徴的なのは、コスメが占める割合が低い点(国内9.5%、輸出2%未満)。これはホリスティックに内側から美しくなりたいという、ナチュラルなこの国の多くの女性が目指す「グリーンビューティ」という在り方を象徴しているのかもしれない。

そして、今回取材をした各ブランドの創業者は全員、高貴な自然哲学と美意識をもった女性たちだった。さすが、120年以上も前に、女性への参政権を世界最初に認め、女性の社会進出が世界トップクラスの国である。今の首相が38歳の女性で、国のトップとして世界で初めて産休を取り(しかも堂々と!)、国民はそれを支持したというニュースは、もうあなたも聞いたことがあるだろう。

さらに、20代半ばから30代半ばのミレニアル世代がオーガニック商品をもっとも好むという統計もある。他国に比べて若いところも「ニュージーランドらしい」と言えるだろう。

 
Antipodes アンティポディーズ
科学的根拠を追求する革新的オーガニックコスメ
 


You Could Almost Eat Me(これは、ほぼ食べ物です)」――。

これは、「Antipodes(アンティポディーズ)」の、フラッグシップ商品「ヘルシーリップスティック」のボディーに印字されている言葉だ。

このラブリーなメッセージを前面に掲げている根拠は、その原材料にある。

〈「ニュージーランドでエイジングケアの答えを見つけた」と熱く語るエリザベス・バーバリッチ創業者〉

主成分は、アボガドオイル、アルガンオイル、シアバター、ホホバオイル、ビーワックスという、食材レベルのヘルシーでナチュラルな素材。

光沢を出すために、FDA(アメリカ食品医薬品局)安全認証済みの顔料をわずかに使用している点を除き、原材料のほとんどが自然由来で飲食可能なものとなっており、英国のベジタリアン認証まで取得している(全12色展開で一律37ニュージーランドドル=約2840円)。

一般女性が生涯で、体内に摂取してしまう口紅の量は約3kg
とは、エリザベス・バーバリッチ創業者がインタビューで語る、女性に向けての警笛だ。そして、彼女がこのブランドを立ち上げ、成長させてきた理由は、彼女の人生そのものが物語っている。

生物学を専攻し、大学院を出た彼女は、高度なサイエンステクノロジーの知識を要する、最先端の医療機器会社の営業職に就く。グローバルセールスのトップを2回も取るなど、輝かしい経歴を飾る中で、イノベーション“科学的な裏付けの大切さ”を学ぶ。

さらに、夫が自然志向のヘルスケアを積極的に取り入れるオーガニックライフ信奉者であったことが、彼女に大きな影響を与える。これら4つのキーワードこそが「アンティポディーズ」のブランドステートメントとなっているのである。

〈辛口なスーパーモデル、カーラ・デルヴィーニュに「このブランドのものならなんでも好き」と言わせるほど、世界のセレブに愛されているブランド。下は、売れ筋商品の「Divine Face Oil Avocado Oil & Rosehip(ディヴァイン フェイスオイル アボカド オイル&ローズヒップ)」(39ニュージーランドドル=約3000円)〉



そんな「アンティポディーズ」は、2006年の創業から10年以上たち、今やニュージーランドを代表するオーガニックブランドとなった。

現在、北米やオーストラリア、欧州(英国など)、アジア(中国やマレーシアなど)、13カ国で展開する。ちなみに、日本では個人輸入レベルで購入できるものの、正式な進出は果たしていない。目下、日本の代理店との契約交渉が進行中とのことだ。

 

 
Wild Love ワイルドラブ
ニュージーランド先住民が愛した伝統のハーブ   
 


オークランド在住のナチュロパス(自然療法医)でハーバリストの、ルイス・ガーランドが一人で立ち上げたブランド「Wild Love(ワイルドラブ)」の代表作は、「Wildcrafted Kawakawa Healing Balm(ワイルドクラフテッド・カワカワ・ヒーリングバーム)」(30mL、19ニュージーランドドル=約1460円)。

どんなタイプの肌荒れに使えて、虫刺されや乳児のオムツかぶれにも効くと、各地のオーガニックショップバイヤーやナチュロパスたちので高い評価を得ている小さなヒット商品だ。



この、日本人にはなじみのない「Kawakawa=カワカワ」とは、ニュージーランドにしかない原種の植物だが、ここでは森や家の庭などに自生するとても身近なハーブ。ハート型をしている葉は、ニュージーランドの先住民マオリが1000年以上、薬草として使ってきた。

ちなみに、筆者(四角大輔)のニュージーランドの湖畔の自宅周りの森には無数に自生している。

ハーブティーや入浴剤として使われ、皮膚の炎症を抑え血流の循環を良くし消化器官にも効くとされる。ルイスが原材料として使うカワカワはオーガニックどころか野生で、自宅の裏庭や郊外の森、ビーチから、自身の手によって集められている。

できる限り樹に負担がかからないよう優しく、心を込めて摘み取るという。「ハーブは、愛と敬意を込めて扱わなければならないわ。これはとてもスピリチュアルで特別な時間なのよ」と彼女。そして、成分を抽出した後のカワカワは、再び大地に戻すという徹底ぶりだ。

〈どんな世界的トップブランドも、最初はルイスのような個人による手仕事から始まっている。小さなブランド「ワイルドラブ」が、今後どのような展開を見せるか楽しみだ〉

他に、「カワカワ・オイル」と、「カワカワ・ティー」がある。彼女がナチュロパシーの大学で教鞭を取っていたころ、湿疹で悩んでいた友人のために手作りのカワカワバームを調合したのがこのブランドの始まり。

口コミで評判が広がり、5年前からビジネス化。ニュージーランドとオーストラリアのみで展開し、成長速度はスローだが満足しているという。なお、この「スローな成長」という哲学は、今回取材したすべての女性起業家に共通していた。

 

 
ViBERi ヴァイベリー
ニュージーランドが世界に誇る高栄養の宝石
 


抗酸化力がベリー類中No.1」「ビタミンCの含有量が、他種の30倍以上」「カルシウム・マグネシウム・カリウムの含有率が、ブルーベリーよりはるかに高い」。

これは、研究機関が発表した、他国のものより圧倒的に栄養価が高いとされるニュージーランド産果実「Blackcurrant(ブラックカラント)」のすごさを表す数値の一部である。



この、英語の呼び名である「ブラックカラント」は、日本ではフランス語の「カシス」の愛称で親しまれている。 カシスは抗酸化作用が高いスーパーフードと称され、常用することで「肩こりや筋肉痛を軽減」「腎臓機能を改善」「血行を向上」「眼精疲労を改善」といった、さまざまな効果があることで有名だ。

スーパーフードブランド「ViBERi(ヴァイベリー)」のカシスは、日本では入手困難、世界でも稀少な、100%オーガニック

それゆえ世界中から引き合いがあり、年々右肩上がりで成長していて、韓国、台湾、香港、シンガポール、米国、欧州諸国へ輸出し、日本でも代理店契約が締結済みとのこと。




そんなグローバル展開が進む「ヴァイベリー」は、トニー&アフサネ・ハウイー夫妻による家族経営の小さな会社。

今から12年前、東京ドーム15個分の広大な土地を購入した彼らは、当初、すでに植えられていたカシスを含む果物や野菜を育てていた。

だがある日、「消費者の健康や、自然環境を考えたとき、農薬や化学肥料を使う敢行農法を続けてもいいのだろうか」という思いに至ったとアフサネ夫人は語る。

〈ハウイー夫妻は、小さな区画から 有機栽培へ転換し、少しずつ広げていった。ただニュージーランドには、これほど広い有機の カシス農園が存在しなかったため、語り尽くせないほどの苦労と試行錯誤を重ねたという。6 年がかりでついに、農地全域と商品の両方で、ニュージーランドの厳格なオーガニック認証を 獲得。さらに2015年と16年、2年連続で『ニュージーランド・フード・アワード』を受賞〉

同時期にトニーは、「カシスはこの土地の気候にもっとも向いている」「スーパーフードとして注目されるカシスは、驚くほど栄養価が高い」「オーガニック市場が世界的に伸びている」ということを知る。

夫婦で話し合った結果、思い切って全ての土地を、カシスの有機栽培に転換することを決意。

Blackcurrant Powder(ブラックカラント・パウダー)」(50g、1230円)、「Blackcurrants Freeze Dried( ブラックカラント・フリーズドライ)」(40g×3パック、2,510円)といった人気商品はもちろん、他の製品もこのリンクから日本でも購入できるのでぜひお試しを。

 

 
Fox River Bath
ハイスペックで高潔なオーガニックブランド
 


ニュージーランド南島、国内随一の大自然が残り、多くのアーティストやナチュラリストが住むことで有名な「ウエスト・コースト」で、2010年に「Fox River Bath(フォックス・リバー・バス)」は生まれた。



フィオラ・マクドナルド創業者

ここの製品は全て、フィオラ・マクドナルド創業者によるハンドメイド。

原材料の95%以上が、オーガニックか野生のもので、彼女いわく「常に100%を目指している」という。自宅周辺の植物を多用し、原材料のほとんどがニュージーランド産。

〈人気の「Luxury Face Oil(ラグジュアリー・フェイスオイル)」(65ニュージーランドドル=約5000円)、「フェイシャル・クレイマスク」(40 ニュージーランドドル=約3080円)、など、全15品目がそろう〉

現在の販路は、通販と近隣の店舗と、南島の一部のオーガニック店のみだが、徐々に広がっているという。

もちろん、多くの人に使ってほしいと思っているわ。けれど、ハンドメイド、自然の恵みのありがたみを心から理解してくれる人に直接届けたいの」という彼女の言葉に、アーティスティックなこだわりを感じる。

 
Organic Initiative
究極のオーガニック&フェアトレード生理用品
 


Pure Inside, Nothing to Hide(この中に入ってるのはピュアなものだけ、隠すべきものは何もありません)」。

パッケージに大きく書かれているこの言葉は、ヘレン・ロビンソン「Organic Initiative(オーガニック・イニシアティブ、略称Oi=オイ)」創業者のメッセージでもある。

ヘレン・ロビンソン創業者

一番の売れ筋のナプキンは、オーガニック&フェアトレードのコットン製の生理用品。

スーパーマーケットで普通に買え、10個入り1箱が、6ニュージーランドドル(約460円)。

アレルギーや不快感の原因とされる、ケミカル製品に含まれる香料や塩素、高分子吸収剤はもちろん不使用で、安全性はこの国の厳しい産婦人科団体のお墨付き。

2015年創業の若いブランドだが、商品クオリティーだけでなく、グラフィカルなパッケージや、先鋭的な広告展開が認められて「デザインアワード」を受賞するなど、大きな注目を集め、売り上げは「加速的に伸びている」という。

〈ポップなデザインの箱も、生物分解可能な紙を使用し、インクはベジタブルダイという徹底ぶり。タンポンやライナー、天然ゴム製の月経カップもラインナップ〉

現在の輸出先はオーストラリア、中国を含むアジア、そして北米と、どんどん拡大しているという。
「2016年もっとも活躍した女性アワード」を受賞し、米国の大統領候補にもなったクリントン女史と一緒に、女性起業家が集まる全米イベントに登壇したこともある創業者ヘレンに、日本進出に関して質問してみると「ぜひ、日本の女性たちにも届けたいわ!」と、積極的な答えが返ってきた。

今回の取材で、10名近いグリーンな起業家たちを取材したが女性が圧倒的に多かった点がとても興味深かった。彼女たちはみな、姿は美しくて心は優雅で、熱い魂と強い意志を持ち、しかもとてもクレバーだった。中でも、もっとも印象深かったのは最後のOrganic Initiative」のヘレンだった。

男性である筆者が、ケミカルな生理用品の危険性を熟知していて「安全な生理用品を1人でも多くの女性に使って欲しい」と熱弁したからか、別れ際にものすごく力強いハグをしてくれ、「Thank you」とほっぺに熱いキスをしてくれたことは、今でも覚えている。

いつか、ニュージーランドのグリーンビューティな女性起業家たちをまとめるような本を書き、彼女たちの美しき活動を日本中の女性に届けたいと思った。


WWDジャパンビューティ 2017年5月25日掲載号=