9月は理想の空間&環境インフラの設計術〈スペース・デザイン〉を解説してきた。
今月は〈ボディ&メンタル・デザイン〉。
生きるため、働くための体と心のメンテナンスがテーマだ。
大好きなこと、本当にやりたいこと、そしてライフテーマをやり遂げるには、高い集中力とパフォーマンスを維持し続けなければならない。
その根幹となるのは「健康な体と心」。
言うなれば、これこそが人生の最重要インフラ。
● 人生は、長い山旅のようなもの
人生とは、長い長い山旅(バックパッキング登山)のようなもの。
実は、人生の「ゴール」なんてものは存在せず、ずっと「山道」が続く。
その道は時に険しく、時に美しい景色を見せてくれる。
その道は一本ではなく、何本も、いや無数に存在する。
誰かが整備してくれた道ではなくラフロードであり、いわば「道なき道」だ。そして、人それぞれルートは全く違う。
ある地点で瞬間的に遭遇する人、短い距離を一緒に歩くビジネスパートナー、ある一定期間をともに過ごす仲間、長い距離を一緒に歩き続けるライフパートナーや家族。人生ではさまざまな出会いがある。
そんなずっと続く「道なき道」を、
自分のペースで、なるべく心地よく歩き続けることこそが「生きること」。
これは、ぼくが最も大切にしている人生哲学。
(禅問答のようでわかりずらいかもしれないけど)
ぼくがプロデュースしたシンガーソングライター・絢香が、デビュー1年目に放った言葉がわかりやすい。
デビューアルバムがいきなりミリオンセールスを記録したことを受けてのインタビュー(当時17歳!)。
インタビュアー:おめでとうございます。10代で早くも人生の夢が叶いましたね。次の夢を聞かせてください。
絢香:ありがとうございます。私の夢は、ずっと歌い続けることです。
絢香デビュー曲 I believe (2006年)
https://youtu.be/sJItuaykRRk
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【今週の先出しハイライト】
・人生にゴールは存在せず、道なき道がずっと続く——その長い旅路を自分のペースで心地よく歩き続けることこそが「生きること」。
・「目的地」までのプロセス自体を楽しみながら生きるべき——道中の一歩一歩を楽しめば、モチベーションと集中力が維持され、夢の実現性も高まる。
・夢が叶うとは「人生のゴール」ではなく「人生の本番のスタートライン」。
・本番を最高に生きるためにこそ、健康な体と心という「インフラ」が不可欠だ。
・「急に死ぬほど頑張って倒れる」繰り返しでは人生でなにも成し遂げられないし、幸せにもなれない。
・大切なのは「瞬発的な頑張り」ではなく、習慣化するための仕組みを構築し「継続」すること。
・「自分をとことん大切にすること」は決してエゴではなく、最高のパフォーマンスで放つクリーンエネルギーがまわりを浄化する「最大の社会貢献」だ。
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<Photo by Hiroyuki USAMI>
● 一歩一歩を楽しんで生きる
ここでは、ぼくが幼少期から続けていて今では仕事にもなった「登山」を例に考えてみよう。
「山頂からの絶景」だけをゴールにして、「とにかく頂上にたどり着くんだ!」と道中は山頂に立つことだけを夢見ながら、ひたすら無理をする。
途中の美しい自然風景を楽しむ余裕はなく、 「つらい」「苦しい」と足下だけを見て歩き続ける。
そうして過酷な山道や岩壁をなんとかよじ登り、心身ともにヘトヘトになってようやく山頂にたどり着いた瞬間、その場にへたり込む……。
そのように苦しみながら登っても、頂上で視界が晴れているとは限らない。
厚い雲で何も見えない......。
多雨多湿の日本では、実際にそういった事態がかなりの確率で起こる。
途中の美しい景色を見逃した上に、 たどり着いた山頂からの景色も味わえないなんて、なんと悲しいことだろう。
まさに、楽しさも感動もない登山。
もっと言うと、 ギリギリの状態で登頂しても、下山という全行程の残り半分が待っている。遭難の大半は下山時に起きている。
つまり、頂上にたどり着いたとしても、 精魂を使い果たし、疲労困憊してしまっていたとするならば、その山登りは失敗。
苦労や我慢をして無意味な代償を払う、ただ登頂するだけの登山に、意味はない。
登山は、山頂からの景色だけでなく、途中のすべての情景も楽しむべきだ。
すると、ゴール(山頂)からの絶景が見えなくても、その登山自体(=行程すべて)に意味を見いだせるようになる。
これは、人生もまったく同じ。
さらに、人生は「登頂と下山」だけではない。
日本の自然形態において、 富士山のような「登って降りる」だけの「独立峰」はごくわずか。
実は、90%以上の山が「山脈」に存在している。
つまり、 1つ目の山の頂のすぐその先には別の山があり、その先にもずっと山が続くのだ。
ぼくが傾倒してきた「バックパッキング登山」とは、そういった山々が連なる山脈を何日間もかけて(時に2週間かけて約40峰を踏破することも)一気に歩き通すスタイルの登山。
1つ目の山頂(目標)に到達して山を降りても「登山の終わり」とはならず、次の山を目指して歩き出さなくてはならない。
つまり、「ずっと歩き続ける」ということ。
まさに人生。「ゴール」はなく、「道」はずっとずっと続いていく(まさに、先の絢香の名言)。
そこで大事なのは、「夢や目標の達成」だけでなく、到達するまでの道のりすべてを味わうこと(絢香の言葉で言うなら「歌い続けること」——歌で得られる成功も喜びだが「歌う行為そのものが幸せ」ということ)。
つまり、「目的地」までのプロセス自体を楽しみながら生きるべきなのだ。
道中の一歩一歩を楽しむことができれば、必然的にあなたのモチベーションと集中力は維持され、パフォーマンスは上がる(まさに絢香がそうだった)。
すると、「夢や目標」の実現性も高まる(ときに早まることも!)。
<まだ荷物が多かった若き日のころ>
● 「人生の本番」に必要なのは、健康な体と心
ぼくがニュージーランドへの移住に費やした15年間を例にあげてみよう。
15年の長い長い道程で……
睡眠不足やジャンクフード食で、肝臓や消化器官など内臓はズタズタ。
日々の不摂生が原因で、運動時に膝を痛めて再起不能となる。
過度のストレスで心のバランスが崩壊し、慢性的に鬱状態になる。
仮にそんな状態で15年間を過ごし、ニュージーランドへ移住したとしても、 その15年間に喜びはあるだろうか。
さらに、そんなボロボロ状態でニュージーランド移住を果たしたとしても……
大好きな畑仕事や庭仕事ができない。
山の向こうにある秘密の湖まで歩いていけない。
カヤックで波を越えて外洋に出られない。
大きくて美味しい巨大ヒラマサを釣ることができない。
近くの海でイルカと一緒に泳げない。
夢が叶っても、体と心が整っていない限り、幸せに生きられないのだ。
つまり、「ニュージーランドでやりたかったこと=夢」が結局は叶わないことになる。
はっきり言おう。
体や心を完全に壊してまで手にする目標や夢に、価値はない。
「夢が叶う」というのは
「人生のゴール(=終着点)」ではなく、「人生の本番のスタートライン」に立つこと。
ニュージーランド移住が叶って以来、ぼくはまさに「人生の本番」を生きている。
レコード会社プロデューサー時代は、ぼくにとって「準備期間」に過ぎない(もちろん、音楽とアーティストとは本気で向き合った)。
夢が叶ったあとの「人生の本番」にこそ、健康な体と心という「インフラ」が必要だ。
そして、移住17年目の来年いよいよ、作家として世界進出の第一歩を踏み出す。つまり、移住後に開始した作家活動も、今まさに挑んでいる「夢」のための「準備期間」だったと言える。
だから、道中である今から、体と心のメンテナンスをしておこう。