『人生やらなくていいリスト』
四角大輔著
頑張らなくていいことに「命=時間」を費やしてるあなたへ。
「To Do」を手放し、仕事の効率を高める。
「心の荷」を捨て、理想の生き方を手にする。
超高ストレス社会で自分を守り抜き、
軽やかに働くための40の技術が語られた、
「世界一簡単な」人生デザイン学の本。
今回は、本著よりChapter36を全文公開!
Chapter 36 具体的な夢がなくてもいい
「夢は持った方がいいかもしれないが、具体的じゃなくていい」
「どの会社に入りたいか、どの職業につきたいかは、実は重要じゃない」
これは、「夢や目標がない。将来どうしたらいいかわからない」というような、仕事や人生で悩む学生から相談を受けるとき、必ず伝える言葉だ。
「夢=具体的な職業」
こう考えていると、自分で自分を苦しめてしまうことになるからだ。
ぼくもかつて、具体的なある夢を目指して何年も頑張ったのに、なし得ることができず、「人生終わった......」とひどく落ち込んだ経験がある。
〈Illustrator. Takahiro Koyano〉
ここで、ぼくの就職活動と、なぜレコード会社に入ったかの話をしたい。
「NHKに入って、社会を変えるようなドキュメンタリー番組をつくる」
学生時代ずっと、こんな夢をもっていた。
そのために4年間、新聞全紙を大学の図書館で毎日読み、ドキュメンタリーを観まくり、社会はノンフィクションの本を読みあさった。ジャーナリストの講演やセミナーにも足を運ぶなど、可能な限りの勉強と努力をした。
実は、第2希望もあった。それは教員になること。
そのために大学で英語教師の免許を取得。NHKがダメだった時は、中学か高校の先生になるつもりでいた。
大学生の頃、本気で世の中を変えたいと思っていた。
自分が受けたいじめ、助けてくれなかった周りのオトナたち、言葉の暴力をふるう一部教師たち、目に見えて破壊されていく自然環境。
色んな環境から、人や自然に対して冷たい社会のあり方に、強い疑問をもつようになり、そんな世の中を、自分の手で変えたいと考えていたのだ。
社会告発ドキュメンタリーをつくりたい。もしくは、教壇に立ち、昔の自分のように苦しむ子供たちにメッセージを発したい、救いたいと。
当時のNHKの入社試験は、高度な筆記と、何度も繰り返される難しい面接が特徴だった。そのために「ここは筆記対策」「ここは面接対策」と、綿密な戦略を立てて、練習台となる企業をいくつか受けて、本番に備えた。
だが、NHKの最終面接で落ち、「夢」は叶わなかった。とても悔しかった。
それを受けて、ぼくは予定通り教職の道を選ぶことに。
教員課程の最後、「教育実習」でお世話になった高校時代の恩師にそのことを告げると、「おまえのような志で学校の先生になる者は、社会実験をした方がいい」「昨日まで生徒だった者が、明日から突然、先生になって英語以外のなにを伝えられるんだ」と、言われたのだ。「ガーン」という衝撃を受けたことをいまでも覚えている。
そこで、NHKの「面接対策」としてうけたソニーミュージックから内定を得ていたことを思い出し、「おもしろい社会実験ができるだろう」という、まったく根拠のない理由で入社したのだ。
志望外だった音楽業界で働くうち、「自分はもともと、こんなことを成し遂げたかったんだ」と実感する瞬間が何度もあった。
担当するアーティストの迫真のライブで、涙を流してくれる人。アーティストが魂を込めてつくった曲に、救われたと手紙をくれる人。
アーティストの音楽とメッセージを日本中に届けることで、過去のぼくのようないじめにあったり、社会でつらい思いをしている人たちを応援することができたのである。
〈Illustrator. Takahiro Koyano〉
ぼくはようやく、気がついた。ぼくの夢は「NHKにはいること」でもドキュメンタリー番組を作ること」ではなかったことに。
「人の心を大きく揺れ動かせるものをつくり、届けること」。そして、「世の中が少しでもいい方向へ動くように貢献すること」だったと。
その方法は、映像だろうが音楽だろうが、教壇だろうがモノづくりだろうが関係ない。もっと言うと「なんでもよかった」んだと。
つまり、会社や職業とはあくまで「夢=目的地」にたどり着くための、単なる「乗り物=手段」ということ。その目的地にたどり着けるなら、その夢を実現できるなら、乗り物はなんだっていいはずだ。
NHKに入社できなくてもいい、ドキュメンタリーが作れなくてもいい。
レコード会社の仕事を通して、ぼくの夢は叶えられていたのだ。夢中になっているうちにぼくは、ソニーミュージックで9年、ワーナーミュージックで5年半と、音楽業界で15年近くも働き続けた。
社会人12年目、もうひとつの「夢」が叶った。プロデューサーとして、大きな成果を挙げられたおかげで、ふたつの大学で非常勤講師となり、教壇に立つという機会を得た。そして、いまでは、たくさんの大学に呼ばれるまでになったのだ。
音楽の仕事をしながらも、「いつかは教壇に立ちたい」というビジョンを抱き続け、それを周りに言い続けてきた結果である。
だがなによりも、あの恩師のひとことのおかげだ。まさに、あのアドバイス通り、自分の社会経験が大学で話す内容に100%も活きている。
「なりたいもの」にならなくても、夢と目標は達成できたということだ。
たとえば、第一志望の商社の入社試験や、弁護士になるための司法試験に落ちたら、あなたの夢は、人生は終わりなのか。そんなことはない。
なりたい仕事につけなかったからといって、「自分はダメなんだ」と思わなくてもいい。それは単に「ひとつの乗り物」を乗り過ごしてしまっただけで、「目的地」にたどりつけないことが決まった訳ではない。
大切なのはその先にある目的地。その職業を通して「成し遂げたいこと」だ。
「夢が叶わなかった」と思ったことがある人。
そんな人はぜひ、「その、夢だと思っていたものをとおして、実現したかったことは何か」を思い出してみてほしい。その先にあるのが「本当の夢」だ。
大切なことは、「どんな職業に就くか、どんな人になるか?」ではない。
人生を賭けて追求すべきは、「なにをやりたいか。成し遂げたいか」なはずだ。
大学生の頃の「世の中を変えたい」という想いはいまでも変わらない。
そして、いままた違う「乗り物」に乗り換えて、その目的に向かっている途中の道のりにぼくもいる。このことを最後にお伝えして、ここを締めくくりたい。
〈Illustrator. Takahiro Koyano〉
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