もうそろそろ、ぼくがベジタリアンであることは認知されてきたと思う。
菜食を中心とするこの「ベジタリアン」にも、多種多様あることはご存知だろうか。

ぼくの場合は、魚は食べる「ペスカトリアン」と「ビーガン(完全菜食主義者)」のハイブリッドという感じ。
ペスカトリアンには別名があり、「ペスコベジタリアン」や「フィッシュベジタリアン」とも呼ばれる。

なぜ肉を食べないかというと、答えはシンプル。

ぼくが、釣りが得意な上に、ここニュージーランドでは、タイ、ヒラマサ、シマアジ、ニジマスといったいいサイズの魚が簡単に釣れるからだ。さらに、キャンピングトレーラーを置きっぱなしにしてる、第2の拠点ビーチキャンプ場の前の砂浜ではハマグリが簡単にとれてしまう。

これらの野生魚と貝は肉厚でとても美味しいため、いつの間にか肉を食べたいと思わなくなったのだ。

〈庭の桟橋に係留している小さなフィッシングボートが湖畔での自給自足ライフの相棒。Photo. Koh AKAZAWA / Model. Daisuke YOSUMI〉

原生林に囲まれた湖畔に建つ我が家は、街から20kmも離れている。

そのため、買い物に出かけるのが億劫な上に、この静かな大自然の中にいると、執筆などの創作活動に集中できるため、家に引きこもりがちだった。

さらに、うちのオーガニック菜園と自然栽培ハーブ園からの収穫量が増えて自給率が上がったことで、スーパーに行く頻度が激減。

しかも冷凍庫では常に多種多様な魚を備蓄しているので、長いときで1ヶ月ほど街に出ないこともあったりで(ただし、湖面には毎日のように出かけるが・笑)、必然的に「買わざるを得ない肉」を食べなくなったというのもある。

〈100%うちの庭のオーガニック菜園サラダ。夏はこれを毎日食べても、菜園の野菜は一向に減らない。#ThanksMotherNature〉

ただし、魚がうまく釣れなくて、うちの冷蔵庫や冷蔵庫の魚の在庫が切れた場合、それはそれで、ぼくと妻は喜んでビーガンとなる。今や欧米では、ビーガン料理は最先端となっていて、さまざまなレシピが公開されているので、決してひもじい思いはしない。

むしろ、この「時々ビーガン」というのがとても体によく作用してくれる。完全な菜食を数日続けることで軽いファスティング効果を得られたり、デトックス効果が高くなるからいい。必然的に、免疫力や抵抗力が高まることになる。

今では、消化器官を休ませるため、体調をより整えるために、意識的にビーガンライフに入ることも多々ある。たとえ魚があったとしてもだ。そんな時、妻も同時にそう感じるようで「今日からしばらくビーガンしようか」と、ぼくよりも先に言ってくれたりすることも多々あるからおもしろい。

〈大きなヒラマサをていねいにさばく。身・アラ・頭部とほとんどを食す。食べられない内臓の一部と骨は畑の肥料に〉

こうした自然な流れで、野菜と魚を中心とする食生活にシフトするにつれ、ぼくの体と脳にいくつかの変化が現れるようになった。まず、お腹の調子がよくなったことが大きかった。

レコード会社勤務時代、ストレスが原因でずっと大腸が不調。ニュージーランドに移住してからもなかなか改善せず、持病のようなものだとあきらめかけていた。それが、ある時期から、便の色形が〝美しく〟なり、なんとその〝香りw〟さえも変化したのだ。ビーガンを続けると、これがどんどん無臭になっていくからやめられない。

調べてみると、もともと日本人の消化器官と腸内菌は、肉を消化するのに適さないということがわかった。肉組織を完全に消化するには、西洋人よりも時間がかかるため、その間に肉が腸内で腐敗し、悪玉菌が増殖してしまう。その結果、腸内環境が悪化し、さまざまな疾病を引き起こすというのだ。

逆に、食事を野菜中心にすると、腸内の善玉菌がどんどん元気になるのである。

昨今、日本で大腸ガンが急増しているのは、過剰に使われる添加物に加えて、食事の肉食化が主原因という研究結果もある。ちなみに、太古から野菜と穀類中心で、時々魚を食べてきた日本人の体には、この食生活はベストマッチだという。

ぼくの体に起きたその他の変化としては、太りづらい体質となり、肌が綺麗になり、疲れづらくなったなど多数ある。

〈屋久島の海抜0メートルから最高峰の宮之浦に登頂し、逆側の海まで下りるハードな登山「ゼロ to ゼロ」をやった時の一枚。Photo. Shotaro KATO / Model. Daisuke YOSUMI〉

そして特筆すべきは、体力が向上し、ぼくのライフワークであるバックパッキング登山やフライフィッシング冒険、外海でのカヤックで、よりアクティブになれたことだ。

例えば。
登山雑誌の撮影ロケで、北アルプスの標高2,500〜3,000mの山々40以上を越えて、2週間かけて完全縦断したとき、20代の頃より余裕をもって、歩き続けることができたのである(当時46歳)。
夜明けから夕方前までずっと海に出てカヤックを漕ぎ続けても、まったく平気となってしまった。

しかも、思考がよりクリアとなり、集中力は高くなり持続時間も伸び、以前に増してクリエイティブになれた。

なによりも驚いたのがイライラしたり、攻撃的な感情に陥ることも少なくなったことだ。肉体だけでなく、思考、そしてなんと、メンタルにおいても大きな変化をもたらしてくれたのだ。

〈レタス・水菜・パクチー・春菊・ほうれん草・ルッコラ・人参の葉・フェンネルのサラダはうちの畑からの、ヒラマサの切り身は海からのいただきもの。〉

「You are What You Eat(=あなたは食べた物でできている)」という英語のことわざがあるが、身をもってそれを体験したことになる。

これらの劇的な〝進化〟は、ぼくの「ペスカトリアン、時々ビーガンライフ」を加速させた。この食スタイルが万人にフィットするとは限らないが、ぼくの体にはぴったりだったということだ。

次回は、ベジタリアン食が内包するソーシャルな意味について書いてみたい。

▽シリーズ《ベジタリアンの秘め事》
①〈ベジタリアンの秘め事・前編〉ぼくが肉を食べなくなったわけ ~ 未来の国からパラダイムシフトの朝 #24 ~
〈ベジタリアンの秘め事・中編〉多様化する菜食と肉食の自然破壊...
〈ベジタリアンの秘め事・後編〉伝統的な和食が世界を救う ~ ...